No.35 – 「五所神社」~忌部の大麻綜杵命を祀る古社~ 忌部文化研究会 会長 林 博章
令和2年(2020年) 7月 NO.28
日本忌部紀行 “忌部(INBE)を行く!”
忌部文化研究会 会長 林 博章
会員の皆さまには「忌部」の足跡を楽しんでもらう目的で、“忌部を行く”を連載しています。阿波国(粟国)を拓き、日本各地の開拓に活躍した阿波忌部の足跡を辿っていきます。中でも阿波忌部が麻を植えて拓いた故事にちなむ旧麻植郡(現在の吉野川市)の伝承地や史跡を紹介したいと思います。鴨島町編の12回目は、五所神社です。
「五所神社」~忌部の大麻綜杵命を祀る古社~
●場 所 - 吉野川市鴨島町麻植塚字堂の本
●祭 神 - 大麻綜杵命
JR麻植塚駅の東南、牛島郵便局の西隣には、大麻綜杵命(おおへつきのみこと)を祭神とする「五所神社」が祀られ、「喩伽(ゆうが)神社」とも呼ばれている。『麻植郡郷土誌』には、「祭神大麻綜杵命(おおへつきのみこと)を祀る」、「阿波風土記曰く、天富命(あめのとみのみこと)は、忌部太玉命(ふとだまのみこと)の孫にして十代崇神天皇(すじんてんのう)第二王子なり、母は伊香色謎命(いかがしこめのみこと)にして大麻綜杵命(おおへつきのみこと)娘なり、大麻綜杵(おおへつき)と呼びにくき故、麻植津賀(おえづか)、麻植塚と称するならんと云う」、「阿波風土記に曰く大麻綜杵命(おおへつきのみこと)の母は、伊香色謎命(いかがしこめのみこと)なり按するに大麻綜命は阿波忌部族なるべし~」とある。また、『かもじま町の歴史とゆたかな文化財』には、「大麻綜杵命(おおへつきのみこと)は忌部の氏人の祖神」とも書かれ、第9代孝元(后)・10代崇神天皇の母となった伊香色謎命(いかがしこめのみこと)の娘・大麻綜杵命(おおへつきのみこと)は阿波忌部族であった。祭神の由来は、当社の南、向麻山の麓にかつて存在していた麻搗石(おつきいし)・麻晒石(おざらしいし)(麻を精製する古代遺跡)にあると見られる。『阿波風土記』逸文から検討すると、大麻綜杵命(おおへつきのみこと)は、伊迦賀色許売命(いかがしこめのみこと)の娘で阿波忌部族、天富命(あめのとみのみこと)は天太玉命(あめのふとだまのみこと)の孫かつ崇神天皇の第二王子であることが窺える。なお、伊迦賀色許売命の[イカガシ]を冠する式内社が川島町の「伊加々志(いかがし)神社」に日本で唯一祀られていることから見れば、阿波忌部を率いた天富命(あめのとみのみこと)の出自は阿波であり、しかも阿波忌部族であった。境内東側には周囲5m70cm、高さ30mの樹齢500年と推定される銀杏の巨樹が守られている。