2024年度 「第3回・つるぎ学講座」 

美馬郡つるぎ町を中心とする世界に誇る「にし阿波」の歴史・文化・世界農業遺産を学習し、地域づくりや新産業の創出に役立てましょう。また、参加者の交流により、地域創生に向けたネットワークを構築しましょう。最新情報を交え講座を行います。
日時-10月20日(日) 15:00~17:00
・場所-つるぎ町農業構造改善センター2階会議室(つるぎ町貞光のつるぎ町役場の隣)
・主催-剣山系未来づくり実行委員会 
・受講費 500円(資料代)
・問い合わせ 同実行委員会 
 枋谷 ☎090-5144-4896
 横野 ☎0883-62-2928

講師 林 博章(環境人類学博士)
2022年にIOUF(アメリカ)及びアステカ大学(メキシコ)より二重博士号(環境人類学・環境学)を取得。2021年より徳島大学非常勤講師。2023年に徳島大学から教養教育賞を受賞。古代史研究家・徳島県地域創生プランナー・忌部文化研究会会長。2011年に鳴門海峡と渦潮の世界遺産化、2012年に徳島剣山系の世界農業遺産化を提言。学際的視座から忌部や日本古代史、持続可能な社会に関する研究を進めている。

「にし阿波の世界農業遺産とサスティナビリティ観光の確立へ」

●世界農業遺産に認定された「にし阿波の傾斜地農耕システム」の最大の特徴は、傾斜地農耕は勿論であるが、未だにカヤを施肥として自然循環させている点にある。剣山系では、カヤ場(採草地)を維持し、毎年傾斜畑に投入するという自然循環の営みが、当然のことのように続けられている。カヤ刈り(肥え刈り)やコエグロ作りなどは、世界に誇る極めてサステイナブルな体験観光になりえるだろう。また、世界農業遺産自体がサステイナブルな営み、SDGsそのものであることを認識する必要があるだろう。それに加えてさまざまな最新調査報告をします。この貴重な機会をお見逃しなく。ふるってご参加ください。

今後の講座予定

第4回 「日本最高技術の“にし阿波の石垣文化”を観光に生かす」                    
●剣山系は、三波川帯における結晶片岩が地質の特徴である。剣山系では、その結晶片岩の片理性を巧みに利用して、日本最高技術と目される多種多様な石垣文化が見られる。その場所を解説するとともに、にし阿波の石垣文化の魅力と観光ツーリズムのあり方について提言する。
第5回 「日本最大の御堂文化の魅力を世界に発信」                            
●剣山系では、集落の中心に必ず御堂が置かれ、傾斜地集落を維持する精神的基盤となっている。その数は500箇所、日本最大の御堂群となっている。その御堂を巡る遍路道、お接待文化、祭礼習俗は未だ残されている。また、御堂は日本最古の喫茶的存在であった。美馬郡に顕著な開放系の御堂スタイルは、日本では剣山系のみとなる。御堂のあり様や、周囲の景観との調和などを考えれば、未来の都市デザイン・都市計画に応用できる。世界的な禅(ZEN)修行の場所ともなりえる。剣山系で御堂を守る協議会ができれば、必ずユネスコの文化遺産にも登録されるだろう。その御堂の魅力と観光等の活用法を考える。
第6回 「日本最大の雑穀・干物王国となる剣山系の復活」                                  
●剣山系では、秋から冬場にかけ穀物・野菜・果樹類を干して乾燥させ、多種多様な保存食や健康食を作る農文化が卓越している。剣山系はいわば「干物王国」(保存・健康食王国)であり、それは、伝統的な危機管理システムが今でも機能している証でもある。その剣山系の卓越した干物王国を支える農文化が[ハデ]であり、急傾斜地と民家、民家基部の高石垣、[ハデ]がセットとなり、剣山系特有の農村景観を形成している。剣山系の多様な干物・保存食文化の生かし方、観光・産業戦略等について語る。また、剣山系は日本最大の焼畑農業地帯であった故に、さまざまな雑穀文化が根付いている。それは食の世界遺産に指定された。そのスローフード戦略について語る。
第7回 「剣山の歴史と例大祭の魅力を世界へ」                                
●日本百名山の一つにも数えられる霊峰剣山(標高1,955m)は、忌部修験道の霊山で、7月17日に開催される剣山本宮剣神社例大祭における山頂の神輿渡御は剣山の風物詩として全国に知られている。一時期、祭礼の継承が危ぶまれたが、忌部文化研究所が祭礼を支援し、その危機を乗り切った。その剣山に隠された平家伝説、安徳天皇伝説、忌部の歴史について紐解き、その文化を世界に発信する。
第8回 「天岩戸神楽(忌部神楽)の魅力を世界に発信」                           
●つるぎ町一宇の「天磐戸神社」の奥社・石窟遺跡で奉納されていた「岩戸神楽」(忌部神楽)は、正月未明に「松尾神社」で継承されている。その神楽の起源は「大宮神社」所蔵の能面から見れば、日本最古の鎌倉時代にまで遡る。石窟遺跡・神楽岩での奉納神楽が復活すれば、必ずユネスコの文化遺産に登録されるだろう。また、剣山系に「天磐戸神社」が存在する日本的・世界的意義を語る。
第9回 「家賀再生プロジェクトの活動に見る剣山系集落再生への道筋」                              
●ソラの藍栽培から始まったつるぎ町貞光の家賀再生プロジェクトは総務省の全国表彰を受けるまでに至った。忌部文化研究所の宿泊施設も完成し、新たな展開を迎えようとしている。その家賀再生プロジェクトの歩みに見る剣山系の集落再生に向けたヒントを語る。
第10回 「剣山系の祭礼と民俗とアニミズムが生命文明の世紀に誘う」                            
●剣山系の集落が開かれた歴史は古く約3000年に及ぶと考えられる。剣山系では、その歴史を継承するアニミズム信仰・巨樹信仰・森の信仰・祭祀遺跡等が未だに息づいている。これらの思想は、持続可能な社会へ移行する道標となるに違いない。それは新たな文明(生命文明への世紀)へと誘うサステイナブル観光となりえるだろう。
第11回 「剣山系の3000年の農文化と信仰形態の展開」                                
●剣山系の集落が開かれた歴史は古く約3000年に及ぶと考えられる。剣山系では、その歴史を継承する農業技術・知恵、及び信仰・祭祀遺跡がまるで重層構造のように残されている世界唯一の地域である。本来は、この歴史を世界農業遺産にと提案したが、プレゼンテーション時間の都合で傾斜地農耕を選択するに至った。剣山系の農耕社会の本質とは何かを語る。それが理解された時、剣山系とは何かとの真の問いに答えることができるだろう。
第12回 「剣山系の伝統的な危機管理システム」                                                                                        
●世界的な人口増加、人間の経済活動に伴う地球温暖化、森林破壊などが原因の一端となり、世界的に異常気象が続いている。剣山系では、食料危機や災害など、突発的な事態に直面し、平地部との交流が途絶えても自給自足が可能なシステムが機能している。剣山系は非常時を想定した知恵に満ちている。それは、約3,000年間の気候変動や天変地異に耐え、幾多の失敗や経験を糧に構築された深い知恵と思想に基づくもので、それは集落維持に関わる危機管理システムなのである。そのシステムを説明し、それを新たな観光産業事業に生かす方策を探る。