剣山系の農文化(世界農業遺産・日本農業遺産)
2. 剣山系の傾斜地農耕システム(日本農業遺産)
3. 剣山系の傾斜地農耕システム(世界農業遺産)
4. 剣山系は農水省「食と農の景勝地」―日本の桃源郷の実現―
5. 剣山系は貴重な生態系の宝庫
6. 剣山系の地質-世界に誇る青石(結晶片岩)
7. 剣山系のソラ世界(傾斜地集落)の外観
8. 剣山系の多様な傾斜地農業の外観
9. 剣山系の伝統農業のシンボル「コエグロ」
10. 土壌流失を防止する高度な技術と知恵
剣山系の農文化の世界的特徴
《プロローグ》
世界農業遺産化を提唱したメンバー写真(穴吹町馬内)
《剣山系とは》
一の森から剣山系の峰々と朝日を眺める
・その主地域を現在の市町村で示せば、美馬郡つるぎ町(貞光・一宇・半田)、美馬市(穴吹町・木屋平)、三好郡東みよし町加茂・西庄・中庄・毛田(旧三加茂町)、三好市(池田町・井川町・山城町・西祖谷山村・東祖谷)、吉野川市(山川町・美郷)、名西郡神山町、名東郡佐那河内村の3市3町1村となる。但し、照葉樹林文化論から見れば、勝浦郡勝浦町・上勝町、那賀郡那賀町を含めて研究を進める。
《剣山系の傾斜地集落はソラの世界》
剣山系の家賀集落に沸き立つ雲
・「ソラ」は、徳島平野に住む吉野川中下流域の人々が県西部方面を指す言葉として今でも使われる。「ソラ」の意味について『徳島県の歴史』(河出書房新社)は、「四国山地は近代に至るまで焼畑農耕が卓越している地で、近世・近代の平野に住む人々がソラと言ったのは、この焼畑農耕が行われている四国山地、稲作社会に視点をすえた場合の異質な現世社会としての山の上の焼畑社会を指す。」と解説する。「ソラ」の人々は、自動車が普及するまでは、山上や尾根道を主要な交通・運搬道とした。現在のように谷筋沿いの一般道に家々が並び立ったのは昭和30~40年以降となる。「ソラ世界」は、山上部より谷底・川筋へと集落・耕地が拓かれた。最初に山上部に住んだ者が水利権を掌握し、そこから下方に分家する形で、一般的に形成されてきた。それ故に、「頂上部に住む人ほど高貴な人で、山の上から拓かれた。頂上部付近から谷沿いへ降りてきた。」との口伝が各集落に残されている。
《剣山系の傾斜地集落(ソラ)の形成》
豊かなつるぎ町貞光字三木栃の農村風景
・「ソラ」(高地性傾斜地集落)が拡がる剣山系は、かつては日本を代表する焼畑地帯であった。四国では昭和25年(1950年)に、約2,000haの焼畑が分布し、その広さは全国の19%に及んでいた。『アトラス 日本列島の環境変化』西川治監修(朝倉書店)の近世末(1850年頃)の林野利用によれば、剣山系が日本最大の焼畑地域であったことが分かる。
・剣山系の主体地質となる[結晶片岩]の特徴は、それ自体が多孔質なため、耕土が空気をよく含み、保水力、排水性も良く、葉菜類、根菜類、果菜類、穀物類など多種多様な農作物の生産が可能である。また、玄武岩由来の結晶片岩が風化した土壌となる「赤土」も鉄分やミネラル分を多く含み、農作物の栽培に適した土壌が形成されていた。そのため、世界的に多様性のある農村風景が構成されたのである。また、結晶片岩は、①水の浄化・優化、②整水・活水の調整、③生理活動の増進、④生鮮類の保存と貯蔵、⑤脱臭・脱色などの作用があり、その特性を生かし剣山系では豊かな生業が営まれてきたのである。
《剣山系のソラ世界の生活圏》
《剣山系の世界的な農文化の特徴-世界に誇る傾斜地農業システム》
剣山系の傾斜地農耕システム(日本農業遺産)
三好市山城町上名の急傾斜地農業の様子。
カヤを敷き込んで約30度の傾斜畑の土壌流失を防いでいる。
三好市東祖谷のシコクビエ(ヤツマタ)とタカキビ
(榮高志氏提供)
つるぎ町貞光字三木栃のタカキビ
剣山系の傾斜地農耕システム(世界農業遺産)
剣山系の急傾斜地農耕システム(つるぎ町貞光字猿飼)
・世界農業遺産(GIAHS)の制度は、平成14年(2002年)にFAOが創設した。GIAHSが設定された背景には、近代農業の行き過ぎた生産性への偏重が、世界各地で森林破壊や水質汚染等の環境問題を引き起こし、地域固有の文化や景観、生物多様性などの消失を招いてきたことが挙げられる。国連教育科学文化機関(UNESCO)が提唱する世界遺産が、遺跡や歴史的建造物、自然などの不動産を登録し、保護することを目的としているのに対し、「世界農業遺産」とは、さまざまな環境の変化に対応しながら進化を続ける「生きている遺産」なのである。「GIAHS」の認定基準は、次の5つの柱からなる。①知識システムおよび適応技術、②食料と生計の保障、③生物多様性と生態系機能、④文化・価値観と社会的組織(農文化)、⑤優れた景観と土地・水管理の特徴。現在の世界農業遺産認定地域は15ヵ国36地域。日本は8カ所となっている。
傾斜畑の全面にカヤを敷いて農業を営む様子
(つるぎ町一宇字剪宇)
傾斜畑の耕土をサラエという農具を用いて土あげする様子
(つるぎ町一宇字剪宇)
コエグロ-カヤ(ススキ)を春まで保存するための伝統文化
剣山系は農水省「食と農の景勝地」―日本の桃源郷の実現―
・2016年6月~7月の農林水産省の募集で、全国44地域から申請があり、その内5地域が選定され、剣山系は西日本で唯一選ばれた。実行組織は一般社団法人そらの郷、「にし阿波・桃源郷の実現」(美馬市・つるぎ町・東みよし町・三好市全域)である。その内容は次のようなもの。急傾斜地で畑作を営む山間部で、にし阿波のありのままが世界に誇れる桃源郷であることをコンセプトに、交流体験の有料化地域にお金が落ちる仕組みを追求する。そして、そば・雑穀等の郷土食や歴史を女性やシニア層が地域ガイドとなって案内することや古民家を高級感ある農泊施設として整備することで、交流し共感できる滞在型地域としてインバウンドを呼び込むとのこと。
「阿波葉たばこの隆盛や酒蔵のあるマチ」
(LED夢発酵日本酒、阿波地美栄、阿波牛、ハレとケ珈琲、たばこ資料館、三好酒蔵、増川笑楽耕)
三好市池田町の歴史ある町並み
三好市池田町に数多く残る酒蔵
「ジャパンブルーの原点、阿波藍はじめ四季の花と果実の彩り」
(吉野川、美村が丘、うだつの町並み、シャインマスカット、阿波尾鶏、雑穀の創作料理)
※美馬市脇町のうだつの町並み
美馬市穴吹町の尾山より眺めた吉野川と日本三大竹林
「傾斜地畑の絶景と農業の民 阿波忌部氏の歴史」
(急傾斜地農法、霊峰剣山、集落体験、そば米雑炊、干柿、半田そうめん、)
世界農業遺産(日本農業遺産)となる美馬市穴吹町渕名の
天空集落
つるぎ町一宇の赤松は、ハデに干す干柿の産地
阿波修験道の霊峰・剣山、数々の伝説が語り伝えられる
つるぎ町半田の名物、半田そうめんは絶品
(写真-つるぎ町役場提供)
「にし阿波ゴールデンルート平家落人伝説が残る日本屈指の秘境」
(でこまわし、祖谷そば、ひらら焼き、ラフティング、平家屋敷、落合集落、かずら橋、古民家体験)
三好市東祖谷の落合集落
秘境・祖谷のかずら橋
「伝統食文化」
祖谷いも(ごうしゅいも)
祖谷そば
ひらら焼き
剣山系は貴重な生態系の宝庫
日本第2位の標高を誇る霊峰・剣山(写真-つるぎ町役場)
剣山の山頂付近の針葉樹林
剣山の亜寒帯林、2000mにわたる植生の
垂直分布が見られる地域
剣山の希少植物・キレンゲキョウマ(写真-つるぎ町役場)
剣山の希少植物・シコクフウロ
剣山の希少植物・ナンゴククガイソウ
剣山系に生息するニホンカモシカ(写真-つるぎ町役場)
剣山系に生息する生態系の頂点となるクマタカ
剣山系は何種類ものサンショウウオの生息地
剣山系に生息する日本最大の陸貝
日本一の大エノキ(剣山系は日本を代表する巨樹王国)
剣山系の地質-世界に誇る青石(結晶片岩)
三波川結晶片岩帯が露出する「大歩危」は国天然記念物に
指定された世界ジオパークの認定を目指している
片理性が高く、割れ易い性質をもつ結晶片岩は、
傾斜地農業を営むための高度な石垣技術に
不可欠な要素。剣山系では高度な石垣技術が発達している
結晶片岩が風化した玄武岩由来の赤土は鉄分の宝庫。
多孔質なので水捌けがよく、多種多様な農作物が栽培できる
結晶片岩(青石)と耕土とコケの絶妙な関係性。
石を利用して豊かな農業を展開している(西祖谷山村吾橋)
傾斜地での多様性のある豊かな農業風景(つるぎ町貞光の三木栃)
徳島平野が豊穣の大地で近畿の台所となるのは、剣山系の
結晶片岩のおかげ(肥沃土が堆積いる徳島市国府町)
吉野川河口部で鳴門金時の栽培。剣山系と徳島平野と
吉野川は同じ生命圏でつながっている
剣山系のソラ世界(傾斜地集落)の外観
美馬郡つるぎ町貞光の家賀集落
周囲を森林に囲まれ、要所に社叢が配置される
・「ソラ」(傾斜地集落)が分布する剣山系は、かつては日本を代表する焼畑地帯であった。四国では昭和25年(1950年)に、約2,000haの焼畑が分布し、その広さは全国の19%に及んでいた。『アトラス 日本列島の環境変化』西川治監修(朝倉書店)の近世末(1850年頃)の林野利用によれば、剣山系が日本最大の焼畑地域であったことが分かる。
美馬郡つるぎ町貞光の広谷集落
周囲を森林に囲まれている
美馬郡つるぎ町貞光の浦山・引地集落
遠くに友内山と家賀集落を眺めることができる
美馬郡つるぎ町一宇の赤松集落
日本最大の標高差をもつ傾斜地集落。干し柿の産地
美馬郡つるぎ町半田字中熊から大藤と猿飼・白石を眺める
美馬市穴吹町の忌部の首が住んだ首野集落「八合切」
で涵養林が維持され、周囲を森林に囲まれている
美馬市穴吹町の雲上の猿飼集落
「ソラ」と呼ばれる由縁となる風景
美馬市穴吹町の渕名集落
傾斜地農業のシステムの見本。地勢に応じ、上部よりカヤ場
民家、傾斜畑、茶畑、棚田が有効的に配置されている
三好郡東みよし町加茂の加茂山集落
傾斜畑で雨除けを使用し夏秋野菜を大規模に栽培する特産地
三好市井川町の東井川(大久保・下久保・松舟)
急傾斜地に大規模に茶畑と園芸農業が卓越する
三好市井川町の吹集落、縦に長く集落が続く
三好市池田町の川崎集落-上部に空の観音堂が祀られる
三好市山城町下名の蔭集落
周囲に森林を残し、地勢に応じ多種多様な作物を栽培する
民家、採草地畑地、棚田、茶畑、ゼンマイ畑、果樹地、社叢林
お堂、神社などが一体感をなし配置された農村景観をもつ
三好市山城町の柿野尾集落/周囲に森林を保全し、最上部に
山神の森(社叢林)を祀り、下部に民家畑地、茶畑、採草地が
交互に展開する。地盤の弱い部分に竹林を植えている
三好市西祖谷山の有瀬集落
剣山系を代表する大規模な茶の特産地。周囲を森林が覆う
茶栽培の適地のため、霜除けがない
三好市東祖谷山の落合集落(国選定重要伝統的建造物群保存地区)
周囲に森林を保全し、要所に 社叢を残し、民家・畑地・採草地が
交互に展開する
名西郡神山町上分の江田集落
周囲に涵養林を保全し、谷合に石垣を用いて棚田
その周囲に段畑を作り、野菜・果樹・花卉類を栽培している
剣山系の多様な傾斜地農業の外観
・剣山系では、傾斜地の土壌流出を防ぐために、主にカヤを施用しながら多種多様な知恵・工夫・技術を凝らし、その上で傾斜地の特性(風土)を最大限に生かし、標高、傾斜度、日照量、気候、地勢、地質に応じ作物を栽培し、適地適作適方式農業を営んでいるのが、剣山系における傾斜地農業の最大の特徴であり、傾斜地集落そのものが持続可能な農業知識の集合体なのである。
1.貞光・一字川水系
~美馬郡つるぎ町一宇の剪宇の傾斜地農業~
典型的な雑穀・野菜・果樹が栽培されている
~美馬郡つるぎ町一宇の大野の傾斜地農業~
急傾斜でゼンマイ、茶、果樹が交互に栽培されている
~美馬郡つるぎ町貞光の猿飼における傾斜地農業~
急傾斜を利用した園芸農業の産地となっている
~美馬郡つるぎ町貞光の家賀における傾斜地農業~
「児宮神社」の社叢の周囲にカヤ場、茶畑、野菜畑
果樹畑が展開する
2.穴吹川水系
~美馬市穴吹町の渕名における傾斜地農業~
傾斜畑で多様な園芸農業や茶畑が展開されている
~美馬市穴吹町の西山における傾斜地農業~
傾斜地と尾根上を利用し野菜、茶、クヌギ、果樹などの多様な
農産物が地勢に合わせ栽培されている
3.加茂谷川水系
三好郡東みよし町加茂は、近代的な雨除けを利用した
夏秋野菜の一大特産地。カヤを施用した等高線農業が展開され
ている。近代農業と古代農業が融合した風景となる
三好郡東みよし町泉野は、近代的な雨除けを利用した
夏秋野菜の一大特産地。対岸に加茂山集落が見える
4.井川谷川水系
三好市井川町色原の急傾斜地を利用した大規模な茶畑
谷からの上昇気流と気温の寒暖差で良質の茶が栽培される
三好市井川町倉石の急傾斜地を利用した茶畑
周囲にカヤ場、クヌギ林、棚田が作られている
5.三好市山城町の水系
三好市山城町上名の平の急傾斜面での大規模な茶栽培の風景
三好市山城町上名字影の30度超の急傾斜畑における
大規模なゼンマイと茶栽培
6.祖谷川水系
~三好市東祖谷山の落合集落の傾斜地農業の風景~
急傾斜地に畑地とカヤ場が交互に展開する。雑穀・イモ・ソバ
栽培がさかんである
~三好市東祖谷山の落合集落の傾斜地農業の風景~
7.鮎喰川水系
~名西郡神山町神領における傾斜地農業~
谷間に大規模な棚田が作られ、丘陵には高石垣が山上まで
築かれ、棚田や野菜畑の形成とともに、スダチや花卉類の
栽培が行われている
~名西郡神山町上分における傾斜地農業~
山上部に涵養林を残し、果樹畑、茶畑、野菜畑が形成されている
8.園瀬川水系
~名東郡佐那河内村の水利の便を生かした美しい府能の棚田~
佐那河内は棚田で有名となる
~名東郡佐那河内村の傾斜地農業~
山頂までミカン・スダチの特産地が形成されている
剣山系の伝統農業のシンボル「コエグロ」
三好市西祖谷山村の吾橋の天空のコエグロ
・剣山系では、カヤ(ススキ)を「コエ」と呼ぶ。採草地(カヤ場)も、伝統的に[コエバ](肥場)、[コエノ](肥野)、コエヤマ[肥山]と呼ぶ。カヤ刈りは、[コエカリ]と呼ぶ。これは、カヤは肥料になるという伝統用語であり、それは剣山系で持続的に農業を営むため、自然の循環を切らない思想に基づく剣山系の共通語なのである。
・「コエグロ」の完成作品を見れば、ソラ世界に生きる人々の美意識が感じられ、芸術作品であることが理解できる。「コエグロ」は、日本原風景となるソラ世界の技術を結集した芸術作品(ジャパン・コエグロ・アート)[Japan Koeguro Clative Art]なのである。コエグロを保存するポイントは、カヤを腐らさず保管させることである。細高い方が良く乾燥する。
三好市西祖谷山村の吾橋の急傾斜地面に立つ天空のコエグロ
三好市東祖谷の落合の急傾斜地面に立つコエグロ群
三好市山城町大野集落の最上部に作られた巨大なコエグロ
三好市山城町下名のカヤ場に立つ形状の美しいコエグロ
芸術性が高い
美馬市穴吹町の渕名集落の最上部カヤ場に作られた
芸術的なコエグロ群
コエグロを作る風景、高さは3mにもなる
(美馬市穴吹町馬内)
場所により背負籠でカヤが運ばれる(つるぎ町一宇)
カヤ場とコエグロ群のある風景(三好市山城町白川)
美馬市穴吹町馬内のカヤ場に作られたコエグロ
カヤ場は山野草や薬草の宝庫となる
つるぎ町半田字高清のロケット型、上部カバー付きのコエグロ
つるぎ町貞光字猿飼のコエグロ群
つるぎ町貞光字三木栃のコエグロ群
東みよし町白内の傾斜畑に置かれた巨大なコエグロ
カヤは束にされ、畑地の一角や納屋でも保管される
(美馬市穴吹町西山)
美馬市穴吹町丸山の冬場のカヤ場に立つコエグロ
つるぎ町一宇字明谷の急傾斜地に立つコエグロ群
カヤだけでなく、落葉も入れて巻くのがコツ。有機農業の原点
(つるぎ町一宇の大宗)
カヤは、カヤ切りで切カヤにされる
切カヤを畑に投入すれば即効性をもつ(つるぎ町一宇)
風の強い傾斜地では、風よけのためハデにカヤ束を巻き付け
門垣が作られる(美馬市穴吹町猿飼)
剣山系では、コエグロ作り体験などが観光体験ツアーに組まれ
つつあるこれは、三好市東祖谷の栗枝渡のコエグロ群
カヤ刈り体験
今後、ソラ世界の農業体験事業や観光事業につながるであろう
美馬市木屋平の谷口に作られたコエグロ
土壌流失を防止する高度な技術と知恵
傾斜畑の等高線に沿って畝を設け、畝間にカヤを敷いている
(東みよし町中庄の泉野)
・剣山系では、多種多様な土壌流出を防止する技術と知恵が見られ、傾斜地集落自体が多様な技術・知恵の集合体と化している。その技術や知恵を整理すれば、次のようになる。
①傾斜畑の等高線に沿って畝を設け、畝間にダムの役割を果たさせ、畝間にカヤを敷き土壌流失を防ぐ
②傾斜畑の耕土にカヤを漉き込んで土壁のようにし、土壌流失を防ぐ
③傾斜畑の全面にカヤを敷いて土壌流出を防ぐ
④傾斜畑の傾斜度を緩めるため、一定の間隔を置いて石垣を積み段畑とする。その石垣最上部の天石を上に反らせ土壌流失を防ぐ
⑤縦に畝を設けて水刷けを良くし、石垣最上部の天井石を上に反らせ土壌流失を防ぐ(三好市山城・祖谷)
⑥逆鍬(サラエ)と呼ぶ剣山系特有の農具を用い、年に2回ほど耕土を持ち上げる
⑦傾斜地集落の要所に社叢や巨樹・巨木を残し、周囲に根を張らせ、土壌流失と集落崩壊を防止する
⑧傾斜地の崩れやすい場所に竹を植えて根を張らせ、土壌流失と集落崩壊を防止する
・これら土壌流失を防止する知恵と技術を輸出すれば、世界各地で傾斜地農業を営んでいる地域に大きな希望を与え、発展に貢献できるだろう。
傾斜畑の等高線に沿って畝を設け、畝間にカヤを敷いている
(美馬市穴吹町渕名)
傾斜畑にカヤを漉き込んで土壌を土壁ようにする
(美馬郡つるぎ町半田字蔭名)
傾斜畑にカヤを漉き込んで土壌を土壁ようにする
(三好市山城町上名字平)
傾斜畑の全面にカヤを敷く(東みよし町加茂山上)
2014年夏秋の約1000mmの豪雨でもびくともしなかった
傾斜畑の全面にカヤを敷く(つるぎ町一宇字漆の瀬)
傾斜度を緩めるため、石垣を積み段畑とする技術
(つるぎ町一宇字赤松)
傾斜度を緩めるため、石垣を積み段畑とする技術
(つるぎ町半田字中熊)
カヤを施用して石垣最上部の天石を上に反らせる技術
(つるぎ町一宇字大野)
カヤを施用して石垣最上部の天石を上に反らせる技術
(三好市山城町大川持)
石垣最上部の天石を上に反らせる技術(つるぎ町貞光字猿飼)
縦に畝を設けて水捌けを良くする技術、畝間にカヤを入れる
(三好市山城町西宇)
要所に社叢林や巨樹・巨木を残し周囲に根を張らせる知恵
(三好市井川町の下影集落)
集落の最上部に山神森を残して集落を守る
(三好市山城町柿野尾)
八合切にして涵養林を保つ
(美馬市穴吹町口山字首野)
傾斜地を弱い部分に竹林を植えて土砂崩れを防止する知恵
(つるぎ町一宇字明谷)
逆鍬(サラエ)と呼ぶ剣山系特有の農具
年2回ほど耕土をサラエで持ち上げる作業
(美馬郡つるぎ町一宇)